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[第28回] 自動車広告関係のお仕事 (第3章 番外篇)


最終回は番外篇

みなさん、こんにちは。品質担当のSです。

前回に続き、これまで行なった自動車広告関係の仕事のお話ですが、プチ連載の最終回は番外篇で締めくくります。

ちなみに、これから書くのは、すべて中国本土での話でございます。決して、日本の話ではありませんからね。

契約書の甲乙丙

日本語のWebサイトで、こんなものを見付けました。

契約書にある「甲」「乙」という表記は、いわゆる代名詞で契約の当事者の略称です。
もともと文字が多い契約書のなかに、正式名称をすべて記載していたら、契約書の内容が非常にわかりづらくなってしまいます。
そのため、契約書の中身を少しでもわかりやすく、簡素化するために「甲は」「乙は」という表現をしています。
(中略)
本来、「甲乙丙丁」は順番や成績を表す意味を持っています。「甲」は1番を表し、「乙」は2番を表す言葉です。
しかし実際には、契約書において「甲乙丙丁」の優先順位は関係なく、大手企業や、契約で有利な方を「甲」として契約書が作られることが多いです。
また、相手によりどうしても気になる場合は、自分側を最初から「乙」とすることでも問題ありません。

出典元: 「甲乙丙丁」の読み方や意味は? 契約書での使い方と注意点も解説!

赤字部分は、現実社会を物語っているように思えます。有利な方は「甲」、一歩引くなら(卑屈になるなら)「乙」です。

中国でも

実は中国社会もまったく同じです。

甲と乙は中国語で「甲方」「乙方」と書きます。

中国の「甲方乙方 (邦題: 夢の請負人)」(1997年)という映画を見たことがある方ならば、よくわかると思います。

簡単に説明すると、甲的立場の登場人物が何人かいて、それぞれ実現したい夢を語り、乙となる主人公チームはなんとか実現してあげるというコメディー映画です。

映画が上映されてから20年…

中国のネット上に突然、「甲方パパ、おっしゃっていることは何でも正しい!」という、おそらく広告会社のスタッフが作ったであろうイラスト付きの愚痴がアップされると、瞬く間に世間に広まりました。

  • イラストのセリフ(訳文)
    • 「我々はだ~れだ?」
    • 「甲方!」
    • 「何が欲しいかというと?」
    • 「知りません!」
    • 「いつ必要かというと?」
    • 「今すぐ!」
[イラスト]
出典元: 不明

これはデザインや広告案の依頼を受けた乙の目線から書いた愚痴で、甲の要求の不明確さ、納期のきつさを物語っていますから、デザイナーや文章を作成している人たちの強い共感を得られました。その後、ネット上にこの類の愚痴が噴出しました。

極め付きはあるデザイナーからの愚痴です。甲は「カラフルで豪華絢爛な黒」と指定してきましたよ!

前述した「甲方パパ」とは、自虐的な言い方で、金持ちや権力者、取引先の事を「パパ」と呼ぶ今の風潮に加え、「甲」+「パパ」にした言葉です。さらに、そういう人たちに対して卑屈な態度をとること、つまり「提灯を持つ」(=中国語では相手の足を掴むと表現する)のは一種の社会現象にもなりました。

当社では

私は前回、このようなことを書きました。

広告代理店Bは自動車メーカーAからもかなり厳しい条件を受けているでしょうが、翻訳会社Cの厳しい条件もを呑めるくらい、年間億単位の広告制作費をもらっています。

広告代理店Bが乙です。厳しい戦いの入札を経て自動車メーカーA(=甲)から膨大な広告制作費をいただいて運営していくのですから、それは言われることを何でも実現してあげたい気持ちでいっぱいでしょう。

数日で企画案を作れと言われたら、寝なくても作る。会議の度、時間節約のために、同時通訳が必要と言われれば同時通訳を雇う…。などなど、我々が見えない苦労もたくさんあることでしょう。

しかし、甲からこういう扱いを受けたからといって、我々丙に対しても当然のような扱いをしてくる会社は、私はお断りしています。

  • 折角通訳を派遣したら、2時間待たされた挙句キャンセルするとか。
  • なんの前触れもなく、夜中の23時にメッセージがきて、明日8時まで翻訳してほしいとか。
  • 落札の条件として通訳は自社の社員じゃなければいけないと言われれば、丙の通訳を自社の社員だと偽るとか…

特急料金やキャンセル料で解決できることならまだいいのですが、最後のように嘘をつくことは、断じてお断りします!

実際、私は3年間付き合った友人の友人から嘘をつくように言われて、取引を中止しました。

乙は甲の仕事が欲しいかもしれませんが、丙(=当社)は別に乙の仕事をどうしても欲しいという状況でもありません。そのため、現在乙と丙の力関係は、平等に保つようにしています。

私は何度か、乙の人たちにこう言ったことがあります。

「いくらお客さんだからって、無理難題を投げられたら、できないことはできないと言わなくちゃ。相手だって事情をわかれば考えを変えるかもしれませんよ。」

しかし、我々が接触する甲は、100%の日系企業ではなく、合弁会社なので、正論でなんとかなるわけではありません。合弁会社の問題点については、後日触れる機会があれば書きたいと思います。

それで乙の方も、断っていいことと断ってはいけないことの判断ができない若者が多く勤めているため、この現状はしばらく続きそうです。

おまけ

「カラフルで豪華絢爛な黒」のデザインはこのようなものだと、ネット上で答えを出してる人がいました。

[黒]
出典元: 不明

筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。