桜
みなさん、こんにちは。品質担当のSです。
東京では、もう、桜の開花が始まったんですか!? 4月上旬に東京出張の予定があるので、もしかしたら桜を見られるかもなんて思ってたんですが、どうやら叶いそうにないですね。。
さて、第4回は、資料のレイアウトや英字や数字についても考えながら翻訳をしているという話です。
PowerPointは厄介です
先日いただいた日本語の原稿は、PowerPointファイルでした。これがなかなか厄介でした。
法人のお客様からいただく原稿の多くはPowerPointファイルですが、翻訳を通じて別の国の言葉に変えていくため、せっかくきれいに作られていたレイアウトは当然崩れていってしまいます。
日本語から中国語に翻訳する場合はまだいい方ですが、中国語から日本語に翻訳する場合はかなり文章や言葉の長さが違ってくるので、正直、レイアウトを整えるための費用を別途いただきたいくらいです。まぁ、実際、費用をいただくことはありませんが。
ただ、これを言うと、大抵の場合は「レイアウトのことは気にしなくて結構です」と言われます。でも、実際には直さないわけにはいかないですよね。
具体例
実際の例を見てみましょう。上が日本語で、下が中国語です。
日本語の「前に」「後に」「間に」の「に」は小さい文字を使っています。「に」に相当する言葉は、中国語だと「前」「後」の前に来ますが、サイズまで日本語に合わせて小さくしなくてもよかったのかな??
英字と数字もそのままというわけにはいかないんです
翻訳料金の見積りは、原稿の文字数を数えて、それに1文字いくらという文字単価をかけて計算しますが、お客様の中には、たまに「英字と数字は計算の対象外にして」という方がいらっしゃいます。
でもね、英字や数字を全く見ることなく何も触らずに翻訳できるならいいのですが、今回の原稿のように全く見ないというわけにはいかないものがほとんどです。
これも実際の例を見てみましょう。
日本語 | 中国語 |
---|---|
サイズ変更無し、JAN変更アリ | 尺寸未变,条码有变 |
グリチルリチン酸2K | 甘草酸二钾 |
W主剤 | 两大主要成分 |
Wブロック | 双重锁止 |
Wアプローチ | 双管齐下 |
パンテテインスルホン酸Ca | 泛酰锡磺酸钙 |
ご覧のように、英字や数字がそのまま使われるわけではないんですよ。結果的に、そのまま使われることもありますが、それは翻訳対象の内容を理解した結果、そのまま使った方が良いと判断した場合です。つまり、機械的に英字や数字を残しているわけではないんです。
これ以外にも
日本語で「New!」という吹き出しとかアイコンがよく使われますが、これは中国語だと「新」に変えるしかありません。
他にも、日本語の「UVカット」は中国語で「防晒」ですし、英字を残したままにするわけにはいきません。
もちろん、英数字をデザインとしての意図があって使っている場合は違いますけどね。
それから「→」(~から~へ)、「&」(及び)、「=」(イコール)、「+」(プラス)も原稿にたくさん使われますが、中国語ではこういう記号をあまり原稿に使わないので、文章の流れを考えて別の言葉に直すしかありません。
さて、どうしよう
これまでご紹介した内容を考慮し、今回の翻訳対象である化粧品の翻訳について、次のようなことを色々と悩みました。
[1] 擬音語: みずみずしい、すべすべ、モチモチ、ピリピリ
これらは、中国で化粧品の広告や説明書を普段からよく目にしている人ならすぐに翻訳できますが、そうではない場合は、自分が翻訳した中国語を一度検索して、化粧品に対してそのような使い方をしているかどうか検証しなければなりません。(念のため、食べ物に対して使う、みずみずしい、すべすべ、モチモチは、別の言葉になります。)
ちなみに、「みずみずしい」「すべすべ」「モチモチ」「ピリピリ」を中国語にすると、こうなります。
水润 光滑 有弹性 刺痛
[2] 形容詞: たっぷり、ふっくら、うっかり、パっと明るい、ピーンとハリがある、バンバン発信、どんどん生成、だんだん濃くなる、びっしり蓄積
まあ大抵、日本語の中で漢語を使っている場合は、中国語に簡単に直せるのですが、和語を使っている場合は、毎回頭を抱えます。どれも中国語の文章の流れに合わせた言葉を選んだので、訳語の紹介は端折ります。
[3] カタカナの動詞: ~をブロック、~にアプローチ、~へのアプローチ、~カバー、~をケア
この中だと、アプローチの使い方が難しかったです。日本語だと、おおよそ「接近する」の意味として使われますが、今回の文章では 「A成分及びB成分を配合して、メラニン生成過程に多角的にアプローチ」という使い方をしていたので、中国語では「成分が何かに効く」という意味で、「作用」にしました。
[4] 今回のキーワード: しみ
通常は「斑点、色斑」と翻訳しますが、「斑点」だとソバカスに近い意味になるので、ここでは「色斑」にしました。
一方、「しみケア」「しみ対策」は中国ではよく耳にする「祛斑」としました。
[5] 化学成分
これが、かなり使われていました。ヒアルロン酸以外は、中国では化粧品分野だと全て聞き慣れない言葉ばかりです。こんな難しい言葉をバンバン使っていては、販売側にとっても消費者にとっても大変だろうなと思いつつ、ここは翻訳者が口を出すところではないと考え、そのまま化学名を調べて載せました。
[6] 販売戦略に関する言葉
「肝斑市場を活性化」「ブランドへのエントリーを増やし」「プレゼンスを獲得&維持し」
どれも「ん??」と思うような表現ばかりです。
- 肝斑市場を活性化する?
- エントリーはこういう使い方するのかな?
- 獲得し、維持するという動詞を並べて使う場合は、&でいいんだ… 中国語の場合は動詞を並べて使ってもいいんだけどね…
こんなことを心の中で呟きながら、少なくとも中国語はスムーズな文章になるよう、最終的にはこうしました。
「专打祛黄褐斑市场」「增加使用品牌的新客户」「获得并维持存在感」
[7] 受け渡し?
「受け渡し」という表現ですが、どうしても理解できませんでした。実際には、こんな文章で使われていました。
- 表皮細胞への黒色メラニン受け渡しを抑制
- メラニンが肌表面に渡ってシミとなるのを防ぐ
百度(Baidu)で中国語を調べてみると、「メラニンが細胞代謝によって表皮へと渡る」という意味だとわかりました。これなら納得!
これで、中国語だとどの動詞を使えばいいかがわかったので、最終的な訳文はこうしました。
- 抑制黑色素移动到表皮细胞
- 防止黑色素移动到肌肤表皮形成斑点
いやぁ、今回も苦労しました。
おまけ
この仕事を終えた時、ふと、こんなエピソードを思い出しました。
- 私はこれまで自動車関係の仕事を10年近くしてきましたが、未だに車を見ても車種がわかりません。この話をすると、男性の方に「我々(=男性)にとって、女性の化粧品も同じですよ。何がどう違うか、全くわかりませんねー。」と言われました。
- 以前、化粧品会社から弊社に通訳派遣を依頼された時、若い女性の方が化粧品に強いだろうと思って、一番若い女性の通訳者に打診したら、その女性から「これまで化粧したことがないので、全くわかりません」と断られてしまいました。
何でもわかる人などいません。日々勉強、生涯勉強ですね。。
筆者プロフィール
北京出身。
大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。
現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。