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中国と中国語のエキスパート

[第17回] 法規や規格を訳す


先週は東京にいました

みなさん、こんにちは。品質担当のSです。

先週は金曜日まで、出張でずっと東京にいました。特に月曜日は雨で気温が下がり、少し肌寒いくらいでしたが、北京は連日30度を超えてたようです。雨だったことを除けば、タイミングよく過ごしやすい時に東京に来ることができました。

さて、今回は法規や規格を訳す時のお話をしようと思います。

通訳の現場では

私は通訳として、自動車の法規や基準に関する日中間の交流会によく出ております。そのような交流会では、法規や基準の原稿を読みながら、その意味の解釈を訳したり、文言の表現を議論したりする場面は少なくありません。

翻訳と違って、通訳の場合、その場で読み上げている法規などを聞いて、瞬時に正確に訳すことは難しいです。結果的に意味を正しく訳せたとしても、やはり同じ法規を2ヶ国語で手元に置いておき、それらを読み上げていく方が遥かに正確です。

そういう通訳の現場を知っているからこそ、現行の法規/基準/規格に触れた原稿の翻訳依頼をいただいた場合は、自分で文言を作らず(訳さず)に、検索して得られた既存訳を採用するようにしています。

じゃあ、具体例を見てみましょう。

[1] 法規/標準の番号で検索

いただいた原稿を、日本語から中国語に訳すという案件でした。

TPMS EMC
GB26149-2017 (2017-10-14 公布)
5.1 電磁両立性要件
車両に搭載されたTPMSはECE R10に記載されている電気/電子部品に関する要件に適合しなければならない

電気/電子部品=ESA (Electrical/Electronic Sub-Assembly)
GB34660-2017 (2017-11-01 公布)
6 型式検査
 6.1 完成車型式検査
 6.2 ESA型式検査
ESAが完成車と共に電磁エミッションとイミュニティ試験に合格している場合、ESAに対し単独で本標準に基づき型式検査を行う必要はない。
ESA単独では不要。代替可能

まずは表の左ですが、ECE R10はECE(国際連合欧州経済委員会) Regulation No.10のことを指していて、車両等の相互承認に関する国際的な協定(1958年協定)[2]に基づいて国際連合が発行した、路上での使用が意図された車両やそのような車両への取り付けが意図されたデバイスのEMCに関する規則です。

ECE R10」を百度(Baidu)で検索して、正しい中国語を確認してみます。そうすると、ECE R10は「关于电气/电子部件的要求」であることがわかります。

日本語の「部品」は通常「零部件」と訳されますが、ここでは「部件」だけとなっています。1文字違うだけなので、誤って理解されることはないでしょうが、やはり公布されている文言を使う方が間違いないでしょう。

次に表の右ですが、GB34660-2017は中国国家標準の番号であり、ここは特に6.2項が全文引用されているので、きちんと調べないと公布された文言と一字一句違わない文章にはなりません。

同じく百度(Baidu)で「GB34660-2017 6.2 ESA型式检查」を検索してみます。そうしたら、標準内容が出てきました。

6.2 ESA型式检验
如果ESA随同整车通过了电磁发射和抗扰试验,对ESA不需再单独按本标准进行型式试验

[2] 中国の法律に関する意見のレター

次の具体例は、日本企業が「中国の法律に関する意見のレター」を日本語から中国語に翻訳する事例です。

No. 日本語
1. 「外商投資法」: 第21条に規定する利益、知的財産ライセンス使用料などの自由な送金の実効性が確保されることに強い関心をもっております。
2. 「技術輸出入管理条例」: 24条3項(非侵害保障業務)は削除されたが…
3. 「技術輸出入管理条例」27条(改良発明帰属は改良側)は削除されたが、「契約法」354条同様の条文、約定が不明瞭な場合他方が共有することができないなど、契約無効などのリスクがあり、関連司法解釈もそのままで失効していない。

黄色でマーカーしている部分は、非常にコンパクトな日本語となっていまして、本来の中国語法律ではどういう用語が使われ、どういう意味で書かれているのを調べないと、ちゃんとした訳ができません。

一度、百度(Baidu)でこれらの法律の条項をきちんと読んだ上で、最終訳を次のようにしました。日本語と中国語を対比していただけると、その違いがよく分かると思います。とても直訳では通じません。

また、中国政府にレターを出しているため、法律に使われる記号も、日本語は「 」、中国語は《 》である、引用した文言は“ ”を使うなど、ちゃんと直さないといけません。

No. 日本語 中国語
1. 「外商投資法」: 第21条に規定する利益、知的財産ライセンス使用料などの自由な送金の実効性が確保されることに強い関心をもっております。 《外商投资法》:在第21条中规定的合法权益(利益与知识产权使用费等),汇款方面是否不存在限制。
2. 「技術輸出入管理条例」: 24条3項(非侵害保障業務)は削除されたが… 虽然删除了《技术进出口管理条例》的第24条第3项(让与人的非侵权保护)
3. 「技術輸出入管理条例」27条(改良発明帰属は改良側)は削除されたが、「契約法」354条同様の条文、約定が不明瞭な場合他方が共有することができないなど、契約無効などのリスクがあり、関連司法解釈もそのままで失効していない。 虽然删除了《技术进出口管理条例》第27条(改进的技术成果属于改进方),但《合同法》第354条中留有同等条文,“约定不明确的,一方后续改进的技术成果,其他各方无权分享”,这就会存在合同失效风险。而且相关司法解释也同样没有删除。

以上のように、すでに周知されている言葉は、「定訳」の一種であり、翻訳者通訳者としては極力「定訳」を使うのがマナーです。

文学の世界だと

文学や詩を例にしたら、もっとわかりやすいと思います。

巨匠シェイクスピアの「ハムレット」の名言
英語原文: "To be, or not to be, that is the question:"
中国語定訳: “生存还是死亡,这是个问题”

試しにこれを百度(Baidu)で検索(自動翻訳)してみました。すると、、、、

うん、、、間違いではないけど。be動詞は「是」で間違いではありません。これはいわゆる、直訳というやつですね。

[百度(Baidu)での検索結果]

試しに日本語もYahoo! JAPANでやってみました。すると、、、、

定訳の「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」に対して、直訳? ちなみに、powered by Google翻訳だそうです。

[Yahoo! JAPANでの検索結果]

お客様の中にはたまに、「一度翻訳した文章を、元の言語に更に翻訳したら元に戻るのか? (例えば、日本語->中国語->日本語で元に戻るのか?)」と疑問に思っている方がいらっしゃいます。でも、答えは

「いいえ、戻れません!」

なんです。

そのため、こういった既に「定訳」あるものに関しては、極力自分で訳文を作らずに調べます。 どうしても調べられなかったら、翻訳しますけど。一見手間のように見えますが(いや、結構手間なのですが)、とても大事なことです。


筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。