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中国と中国語のエキスパート

[第15回] 訪日外国人向けの観光パンフレットに物申す


私の旅のスタイル

みなさん、こんにちは。品質担当のSです。

今回は観光分野の翻訳に関するお話をしますが、その前に日本での観光について、経験に基づく思いを少しお話します。

私は中国と日本の各地を結構回っています。これまで仕事の関係で出張も多かったのですが、好きな旅のスタイルは、「一人になること」そして「自分の足で土地を記憶すること」です。誰にも邪魔されたくないので、一人旅が多かったのです。好きになった場所は興味がなくなるまで何度も足を運ぶから、夏休みに連続3年で中国の青島市に行くとか、年に3回も日本の京都に行くとか、そのように完全に気が向くままに動いています。

私が通訳という仕事をしているために、当然ガイドもできると思われて、たまに中国と日本の友人に頼まれたりしますが、「いや無理ですよ! 人にグルメや買い物を紹介する前に、自分が一番先に食べたり買っちゃいますね」と冗談交じりに断っています。(ガイドと通訳の違いについて、後日書きます。)

実はガイドできないのは、冒頭に書いた「他人との旅のスタイルが全然違う」というのも理由の1つです。まぁ、それでも一度や二度は日本を案内をしたことがあります。基本はぴったり付いていくのではなく、相手がしたいことに合わせて目的地を推薦し、行き方や注意事項などを教えて、あとは勝手に行ってもらってました。幸い、友人たちも私以上に世界各地を回っている人たちで、自分で回りたい願望も強く、さほど苦労しませんでした。

どの地図を持っていく?

ひとつ、よく覚えていることがあります。ある友人と同じホテルに泊まって、朝それぞれの目的地に向かって出発しようとする時でした。フロントに地図が置いてあったので、「持っていきますか?」と友人に聞くと、「それは必須ですね!」と。「では、中国語と英語のどちらが必要ですか?」と聞くと、友人は「日本語と英語はいる。中国語ももらっておこう。」と答えました。私もその返事の意味をすぐに理解したので、友人とお互いに「わかる、わかる」って笑いあいました。

たぶん、地図を作った人も地図を置いた人も、中国人なら中国語の地図を手にすれば充分だと考えていたのでしょう。でも、残念ながら違います。もし、そう考えていたのなら、日本を旅している外国人が遭遇するシーンをイメージできていないという証拠です。

必要なのは視覚情報と聴覚情報

旅をしていると、視覚情報と聴覚情報の両方が必要です。

例えば、東京から青森まで行くために東北新幹線の「はやて」に乗る場合、「はやて」は「Hayate」と表記しないと、外国人にはわかりません。英語圏の人たちは英語のガイドブックを使うと「Hayate」と読めますが、もし駅の案内板に「はやて」しか書いてなかったら、不安なので日本人に聞きます。これは「Hayate」ですか?

それは、中国人も同じです。もし、日本語の「はやて」を単に中国語定訳の「疾风」としか訳していなかったら、中国人はこの2文字を指差して日本人に聞くでしょう。一般的な日本人が「疾风」を見て「はやて」だとわかりますか? 普通はわかりませんよね。

このように、視覚情報の「はやて」も、聴覚情報の「Hayate」も、どちらも必要なんです。

せっかく親切に作成してくれた中国語版の地図やガイドブックに、こういった視覚情報も聴覚情報も足りていないから、先ほどの地図の話では、友人はまず日本語(視覚情報のピックアップ用)と英語(聴覚情報のピックアップ用)の地図が必要だと言いました。結局、中国語の地図は、後で自分がどこに行ったかの確認用に取っておくためでした。

東京ディズニーランドでも

昔、アメリカから来た親戚を連れて東京ディズニーランドに行った時も厄介でした。窓口でパンフをもらうとき、1人1冊と言われたので、日本語版1冊(私の場所案内用)、英語版2冊(子供2人用)、中国語版1冊(子供の親用)をもらいましたが、変な目で見られました。

でも、しょうがないですよ。だって、アトラクションの場所を私が日本語で確認し、子供たちの親に中国語で説明し(中国人同士なんだもん)、そして、アメリカ生まれの子供たちはアトラクションを英語で喋りあうから。

このようなことをたくさん経験しているので、「観光パンフの作成に実は熟考が必要なんですよ!」と声を大にして、観光庁とか外国人向けパンフを作る担当者とかに、よくよく話したい!

具体例

以前、私がいただいた観光の原稿を中国語に訳したとき、次のように青森観光コースにあった列車名をすべてローマ字も載せるようにしました。決して、文字数稼ぎではありませんよ。

日本語 中国語
特急「つがる」 特快列车“津轻(Tsugaru)”号
東北新幹線「はやぶさ」 东北新干线“隼(Hayabusa)”号
東北新幹線「はやて」 东北新干线“疾风(Hayate)”号
バス「ためのぶ号」 巴士“为信(Tamenobu)”号
快速「リゾートしらかみ」 快车“休闲白神(Resort Shirakami)”号

個人的な考えですが、日本で中国人向けの観光パンフを作成する際に、日本語版をそのまま翻訳するのではなく、中国で出版されているものを参考にしたほうがいいと思います。

ご参考までに

私の愛用書「地下鉄でパリを遊ぶ」では、地図にはフランス語をそのまま載せてます! (そうです、地名をすべて中国語に訳す必要がはありません。観光客が街を回るためには視覚情報が必要なのです。)

説明文の駅名も、写真の上部分のようにフランス語でそのまま載せています! (中国語の説明から、音声をピックアップできますからね。Bastille=巴士底 です。)

[「地下鉄でパリを遊ぶ」の写真]


筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。