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[第10回] 固有名詞を訳す


仕事、花粉症、風邪、、、、そして、桜

みなさん、おひさしぶりです。品質担当のSです。

日本はGWの最終日ですが、いかがお過ごしですか? 中国はメーデーの連休が終わり、日本より一足早く日常に戻りました。

さて、私Sは日本の会計年度(3月末)が終了すると、長い1年や一番忙しい3月が終わったということで、毎年、長めの休暇を取っていました。しかし、今年は4月に入ってからも、いくつも案件が続いたため、ようやく休めると思えたのは、4月下旬に入ってからでした。

加えて、2月からは花粉症と風邪の繰り返しで、いつものように「春よ来い来い! 桜を見たい! 旅行に行きたい!」って気分になれませんでした。それでも4月の日本出張の際、お客様回りで偶然に出会った桜や、新幹線の窓からたまたま見かけた桜は、私の疲れた心を癒してくれました。

「この時期、東北へ行けば、もっと桜を見られるかも…」

そう思いながら、数年前に翻訳した青森観光の原稿をもう一度開き、あれこれと思いを巡らせました。

音を取るか、意味を取るか

外国の言葉を中国語に訳す時、意訳する(=意味を取る)か、音訳する(=音を取る)かの、2つの選択肢があります。音を取る場合も、当て字が「漢字からぴったりのイメージ」もしくは「いいイメージ」を喚起させられるかどうかは、翻訳者の腕の見せ所と言ってもいいでしょう。

日本語みたいにカタカナで表記すれば済むとか、英語のように語源がフランス語なら単語そのままのスペルを取り入れるなど、中国語には簡単な方法がありません。

例えば、飲み物のコカ・コーラ。中国語訳は「可口可楽」ですが、字面から見れば「口にすべし、楽しむべし」という意味になる話は、日本人でも多くの方がご存知だと思います。

また、メルセデス・ベンツは中国語だと「奔馳」ですが、この2文字を見た中国人は「風のように駆け走る」イメージを連想するので、実にすごい訳だと思います。

私の記憶では、1995年にパーソナルコンピュータが一気に世の中に普及した際に、中国語の「電脳」という訳語が日本人にも愛され、PCの専門誌によく登場していました。

ねぶた祭をどう訳すか

さて、話を青森観光の原稿に戻すと、どう訳したらいいか悩んだ言葉は「ねぶた祭」。

[ねぶた祭りのイラスト]
ねぶた祭りのイラスト

実は、「ねぶた祭」を日本のサイトで調べても、漢字は出てきません。もっと調べてみると、青森には三大「ねぶた祭」があって、それぞれ「青森ねぶた祭」「弘前ねぷたまつり」「五所川原立佞武多 (ごしょがわらたちねぷた)」ですから、ここまで調べた人は「ねぶた祭」を「佞武多祭」と中国語表記にすることでしょう。実際、ネット上で散見されます。

でも、私は「佞武多祭」じゃ納得しないですね。そもそも、日本語だと、ひらがな、カタカナ、漢字で同じことを表しても、実は微妙にニュアンスが違います。加えて、「佞」という字は、あまりいい意味を連想できません。

goo辞書を調べてみると、以下の意味がありました。

  1. 口先がうまい。心がねじけている。「佞奸(ねいかん)佞言佞臣佞人/奸佞邪佞
  2. 人あたりがよい。才がある。「不佞

2番目はいい意味ですが、不佞の2文字を使わないと、なかなか思いつきませんよね。

で、当時の私は「青森花灯節」と訳していました。花灯=飾り灯ろう、節=祭り、ですけど、なんとかして、いい意味を出したかったのでしょうね。

あの時からすでに5年以上が経ちますが、今の私なら「武士紙人灯節」(Nebuta)にするでしょうね。

ドラえもんの名前

私が小さい頃に中国で見たドラえもんは「機械猫」と訳されていました。この話をすると年齢がバレますが、ま、いいか。確か、猫型ロボットという説明が由来でした。

ところで、ドラえもんの名前は、なぜカタカナとひらがなが混在した表記なのでしょうか? ネットで調べると、こんな解説がありました。(引用元は由来・起源・語源のキュレーションサイト F-Rom)

ドラえもんの名前の由来について

ドラえもんは、藤⼦不⼆雄先⽣が作者で、倒しても倒しても起き上がってくる「起き上がりこぼし」というおもちゃにつまづいたことがきっかけで、あのまんまるで可愛らしいドラえもんというキャラクターを思いついたのだといいます。
そして、思いついた時にちょうど横にいたのが「ドラ猫」だったらしく、名前に「ドラ猫のドラ」を使い、また「えもん」については⽇本古来の名前によく使われている「右衛門(えもん)」にちなんで付けたということです。
そして「えもん」だけひらがなの訳というのは、「ドラえもんが⾃分の名前を書くときに『えもん』の⽂字がカタカナで書けなかった」といったエピソードがあるとされています。

中国語の訳名も、

机器猫、小叮当、阿蒙、蓝胖子、哆啦A梦

と時代が移るに連れ、何度か変わっていきました。

最後の哆啦A梦は今や定訳となっていますが、これにはエピソードがあります。藤子・F・不二雄先生の生前の願いは、「世界中で大ブレークしたドラえもんを、どの国の人々にも同じ発音で呼んでほしい」ということだったらしく、そのために台湾で考え抜いた末の訳が、哆啦A夢(=簡体字だと哆啦A梦)なんだそうです。

私はこの話を聞いて、文化に関連した固有名詞は、極力日本語の発音を残す努力すべきだと思いました。

さらに、今の時代では、観光客がそこそこローマ字を読める力も信じて、ねぶた祭はやはり意味も音も伝えようという思いで、「武士紙人灯節」(Nebuta)にしたいかな。

もちろん、訳語には正解などありませんので、もっといい訳がきっとそのうちに出てくることを信じております。特に、若者に期待大です! (←この話はまた次回)。


筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。