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[第63回] 中国伝統色彩学術年会の用語整理(6)


連載企画「中国伝統色彩学術年会の用語整理」の第6回目です。

今回は、ダジャレや流行語を多用したスピーチについてご紹介いたします。
※「中国伝統色彩学術年会」については用語整理(1)をご参照ください。

毎年生まれる様々な流行語、そこから派生したネタ、そしてダジャレなどが、聴衆を楽しませるためにちょっとしたスパイスとしてスピーチに用いられることがあります。
しかしこうした流行語などは時事、文化、歴史、生活習慣などをベースにしたものが多く、そうしたベースとなる物を知らないと楽しめなかったり、場合によっては意味を理解することすらできないため、まさに「通訳泣かせ」と言えるでしょう。

 こうした表現を多用したスピーチは、聴衆にとっては非常に身近に感じられ、ユーモアにあふれた面白いスピーチなのかもしれません。
しかしこの「面白さ」をどこまで訳し、その面白さの理由をどこまで説明するのか?今回は実際のスピーチ内容を例に見ていきましょう。

例1

中国語

如果是宋建明先生、崔唯先生、冯时先生吧,那倒还可以,几位都是帅哥,有颜值,站在这里,就是一道风景(众笑)。我呢,也就是这么一位长得不那么具有鲜明美感特征的老年人(众笑),就差手里拎个保温杯,里边再放上几粒枸杞子了(众笑)。

日本語訳

宋建明先生や崔唯先生、馮時先生ならまだいいでしょう。何と言っても皆さんイケメンですし、もうそこに立っていらっしゃるだけで目の保養になりますからね。私はね、まあそんなに目立って男前でもない年寄りですし。あとは健康のためにクコの実を何粒か入れたお湯のステンレスボトルさえ持っていれば、もう完璧ってもんです。

解説
まずこの一節では「顔面偏差値」という流行語をメインに、「クコの実」などの価値観を盛り込んだ内容となっています。

単語

流行語

颜值 yán zhí

日本語の「顔面偏差値」が漫画やアニメを通して、中国に伝わったという説があります。
意味は「顔面偏差値」「美人度」「イケメン度」で、日本語に訳す場合は男女によって訳語を変えます。
また中国語では、人間だけではなく、モノの見た目の良さを形容する際にも用いられます。

用法

那个女演员颜值很高。

あの女優は超美人だ。

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単語

流行語

一道风景 yī dào fēng jǐng

直訳すると「一つの風景」。ただしこのスピーチでは前後の内容から「そこに立っているだけで一つの風景」と訳してしまうと、日本語としては理解しにくくなってしまうので、ここでは「目の保養」と流れ重視の意訳をしています。

単語

ダジャレ

枸杞子 gǒu qǐ zǐ

日本では「クコの実」という名で薬膳ではおなじみの食材。
中国では近年、健康を心配する若者たちの間で、クコの実は養生の代名詞のような位置づけになっており、「啤酒加枸杞(ビールにクコの実を入れる)」といった流行語も生まれています。
ここでは同じく養生や年寄りの代名詞である「保温杯(ステンレスボトル)」と組み合わせることで、自身の年寄りぶりを強調する内容になっています。

流行語はシンプルに置き換えることができればベストですが、例えばクコの実のようにイメージやネタ、観念などがベースにある流行語に関しては、対応した訳だけでは伝わりにくい箇所をどれだけ盛り込むかがネックになります。

例2

中国語

色彩年会也是这样,4年了,也不免让人审美疲劳。(中略)疲劳,就是累了。审美还会累(众笑)?审美会累成什么样呢?会累得虚脱?累得口吐白沫?累得当场昏厥(众笑)?昏厥,那也不应该叫昏厥,而应该是陶醉吧(众笑)。

日本語訳

中国伝統色彩学術年会も、もう4年目。いい加減、審美疲労になってもおかしくないでしょう。(中略)疲労、つまり疲れたってことですよね。審美疲れなんてことがあるんでしょうか?審美疲れになったらどうなっちゃうんでしょう?虚脱状態に陥ってしまう?それとも口から泡を吹いたり、まさか審美疲れで気絶してしまうとか?気絶、と言うべきではありませんよね。この場合は陶酔というべきでしょう。

解説
この一節では「疲労」から話題をユーモラスに展開していく内容ですが、日本語にした場合、どこまで面白くなるでしょうか?畳みかけるような内容の語尾を少し変えてみることで、雰囲気が少し伝わりやすくなるかもしれません。

単語

流行語

审美疲劳 shěn měi pí láo

ここでは後ろの内容で「疲れ」に言及しているため、「見飽きる;げんなりする;美に鈍感になる;マンネリ感」と言ったように意訳するのではなく、敢えて「審美疲労」という直訳を使うことで、全体のまとまりを追求しています。
ただ、意訳を使わない(または敢えて意訳しない)のは、翻訳と異なり、現場で行う通訳ではその後のスピーチ内容の展開がわからない場合も多いからです。

例3

中国語

此“色”非彼“色”也。“美色”之“色”,乃色彩之“色”;“好色之徒”,耽迷、热爱色彩之人也。

日本語訳

ここで言う「色」は「色事」の色ではありません。美しき色、色彩の「色」を指し、私の言う「好色の徒」とは色彩を耽溺し、愛する者を指します。

解説
1つの漢字の持つ複数の意味や同じ読み方の別の漢字をネタにした内容も通訳するのは至難の業。なぜなら中国語と日本語では漢字の意味が常に同じとは限らないからです。そして読み方は当然ながらピンインが同じということになるので、日本語の音読みでは対応しきれない場合がほとんどだからです。

単語

好色之徒 hào sè zhī tú

幸いここでの「色」の持つ二重の意味は中国語と日本語においても同じであるため、余計な説明を加えることなく、「色事(いろごと)」という単語を使うことで、聴衆もすぐにその二重の意味を感じ取ることができます。
また、中国語の漢文風の表現を日本語の訳語にも取り入れることで、「好色の徒」とやや古風がかった言い回しもそのまま使うことができます。

例4

中国語

友谊的小船说翻就翻,好色之徒的志向说什么也不会改变!微信硬是把手机搞成了对讲机,好色之徒永远是公鸡中的战斗机(众笑)!我们只知好色,不知疲劳!

日本語訳

友情は移ろいやすいが、色彩を愛する「好色の徒」の志は何があろうと変わらない!トランシーバーとして使えるWeChatはスゴイが、我々はもっともっとスゴイ!まさに好色三昧で疲れを知らないからだ!

解説
上述した同じ読み方の別の漢字をネタにしているのがまさにこの一節。ここでは「对讲机(トランシーバー)」の「机()」と、「公鸡(雄鶏)」の「鸡(jī)」、そして「战斗机(戦闘機)」の「机(jī)」という3つの音をネタにしているだけでなく、「好色」という意味で、「好色の徒」と「雄鶏」にもつながりがあるという何重もの意味が込められています。しかし訳語ではこうした一切をバッサリ無視して、本来の意味である「スゴイ」というところだけをピックアップして訳出しました。

流行語

友谊的小船说翻就翻 yǒu yì de xiǎo chuán shuō fān jiù fān

2016年の流行語トップ10に選ばれた表現。流行語としてはやや旬が過ぎていますが、耳にすれば「ああ、あれね」という程度には知られている表現です。
対訳としては「友情の小船は転覆するときには転覆する」とすることが多いですが、通訳として耳にした場合、なかなかすぐにピンとくる内容とは言い難いです。
ここでは後半部分の「変わらぬ志」と対応させるように、「移ろいやすい友情」とするとすんなり理解できるかと思います。
ただ同時に、流行語を使っているということは全く分からなくなってしまうので、面白さという点ではベストの通訳とは言い難いかもしれません。

ダジャレ

公鸡中的战斗机 gōng jī zhōng de zhàn dòu jī

同じ音を含んでいるというのはすでに上述しましたが、元ネタとなるのは2007年の中国の年越し番組「春晩」のコントにおける名ゼリフ「下蛋公鸡,公鸡中的战斗机,哦也(卵を産める雄鶏はスゴイ雄鶏)」です。

上記二つのネタは訳出したところで意味を成すものではなく、しかも容易にわかりづらくなってしまいます。そこで比較的わかりやすいWeChatのネタは残し、後半の雄鶏のネタは「もっともっとスゴイ」と完全な意訳を採用しました。そして最後の「好色だけを知っていて、疲れを知らない」という一言を「好色三昧」とややオーバーに表現することで、少しでもユニークさを伝えようとしています。

 面白さというものはチャップリンの喜劇のように体の動きだけで伝わるものと、漫才や相声のように文化的なベースが無いと面白みを理解しにくいものがあります。通訳はその面白さを言葉で伝えなければなりません。相当推敲を重ねた字幕や翻訳でも、その差をうまく伝えきれないことが多々あります。ベストではないかも知れませんが、それを探り続けていくことが、通訳の大事な仕事の1つなのかもしれません。

以上で、6回にわたる「中国伝統色彩学術年会の用語整理」シリーズを終了します。

この原稿を仕上げた1021日に、日中間のビジネス往来再開、条件付きで隔離免除となりました。さて、いつも11月に開催されるこの伝統色彩学術年会、今年も無事に開催されることを祈ります!

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筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。