中国語の翻訳ならモシトランス

株式会社モシトランス
中国と中国語のエキスパート

[第62回] 中国伝統色彩学術年会の用語整理(5)


連載企画「中国伝統色彩学術年会の用語整理」の第5回目です。

今回は、西安美術学院の張楽教授が発表された「正倉院蔵『鳥毛立女屏風』からみる、唐の時代の紙と壁の絵画における色付け手順」についてご紹介いたします。
※「中国伝統色彩学術年会」については用語整理(1)をご参照ください。


鳥毛立女屏風(「世界の歴史まっぷ」より)

張先生の発表内容

はじめに

中国語

《鸟毛立女屏风》是日本东大寺正仓院所藏的一件纸本屏风,现收藏于奈良国立博物馆。自江户时代(1624 — 1867)以来,《鸟毛立女屏风》一直是日本学术界的研究重点,并于 20 世纪 60 年代正式作为天平时代(729 — 781)的日本绘画作品被录入美术史教科书。而1970年以后,随着大量唐墓壁画在中国出土,许多新的考古证据的出现使日方称此屏风为日本之作的结论的可靠性越来越受到质疑。尤其屏风所绘图像只有三处设色,更使学术界充满争议。

日本語訳

「鳥毛立女屏風」とりげりつじょのびょうぶは、日本東大寺正倉院に伝わる紙本の屏風で、奈良国立博物館に収蔵されている。江戸時代(1624年~1867年)以来、「鳥毛立女屏風」は、日本学界における重要な研究対象であり、20世紀60年代より天平時代(729年~781年)の日本絵画作品として美術史教科書に載せられた。しかし1970年代以降、唐の墓の壁画が中国で大量出土するにつれ、多くの新たな考古学的証拠が現れ、この屏風は日本の作品という結論の信頼性がますます疑われるようになった。特に屏風に描かれた絵の色付けは三つしかない点について、学界の議論の焦点となった。

「鳥毛立女屏風」の色付け

中国語

全屏共六扇,未连接,已不知原初序列。每一扇都绘有一名贵族仕女,或立或坐于树下。
六扇皆为木质结构,表层纸本,上由白色粉质材料打底,墨线勾勒人物、树、石等形象。除人物肌肤部分以及袖里、手执圆形器物等三处设色之外,其条皆素色。若干细部有贴敷羽毛痕迹。

日本語訳

屏風は六扇からなり、現在は解かれてばらばらになり、その順序は定かではない。各扇に唐装の婦人を一人配した樹下美人画である。人物の姿態は六扇ともそれぞれ異なる。
屏風は木造であり、表面に紙が貼られている。紙に白土(はくど)を地塗りした上に、墨で人物、樹木、岩を描き、顔など肌の部分や袖中、手に持つ丸い器の三カ所のみ彩色を施した以外に、下絵の墨線しかない。ほとんど剝落しているが、一部に羽毛が貼られている。

唐時代の紙、壁の絵画における色付けのプロセス

中国語

一、涂刷白底
在绘事之前,粉刷墙壁和在纸本上涂刷白底是必经的第一道工序。
至于绘画的程序是先从织物分野影响到壁画分野还是反之,似乎史料记载并不清晰。

日本語訳

一、白塗り
絵を描く前に、壁や紙の上に白地を塗るのは必ず行われる工程である。
この手順は織物分野から壁画分野に影響を与えたのか、あるいはその逆かは、歴史的記載から明らかになっていない。

中国語

《鸟毛立女屏风》及敦煌大部分唐代壁画与中原唐墓壁画等的基底材料调查结果显示,其基底材料均为白垩土,主要为碳酸钙(CaCO3)成分。
纸本绘画与壁画同属白土底上用墨勾勒,再进行染色的程式顺序,充分说明《鸟毛立女屏风》的制作基底与唐时期的纸本绘画及唐时期墓室壁画基底的一致性。

日本語訳

「鳥毛立女屏風」及び唐時代の敦煌壁画、墓の中の壁画などの基礎材料に関する調査の結果、白塗りの材料はどれも白土(はくど)で、その成分は主に炭酸カルシウム(CaCO3)である。
また、紙の絵は壁画と同じく、白土で地塗りした上墨線で輪郭を描き、それから色塗りしている手順からみて、「鳥毛立女屏風」の制作の下地は唐時代の紙絵や墓室の壁画に使われた手法と一致している。

中国語

二、“留白”与“设色”
从唐时期绘画的整体样式来看,当时的绘画程序应该是以设色完毕作为作品最终完成的标准,但《鸟毛立女屏风》,设色部分非常之少,即使是在通常要敷成黑色的头发部分却未见有任何设色。
笔者注意到在敦煌石窟壁画与唐代墓室壁画中都有类似的遗存面貌。例如,唐代苏思勗墓室壁画中墨线勾勒之上的面部红妆,显示出“白画”基础上的首先设色为妆容中的布红。这提示《鸟毛立女屏风》的源头是否与来自中国中原的刻绘技术密切相关。

日本語訳

二、「余白」と「色付け」
唐時代の絵画様式から見て、当時の絵画の手順は、色を付けて作品完成となるが、「鳥毛立女屏風」は、色つけの部分が非常に少なく、通常は黒を塗る毛髪の部分でも色がなかった。
敦煌石窟壁画や唐の墓室壁画にも似たような余白があることに気づいた。例えば、蘇思勗の墓室壁画のも、墨線が引いた上、顔の赤い化粧だけ残っていることは、余白にまず化粧の赤いところに色を付けることを示している。これは、「鳥毛立女屏風」の源流は中国の中原地域の絵付けと彫刻技術との密接な関係性についてヒントを与えてくれている。

中国語

本文认为其共同的遗留特征,即都是在白画进行阶段后首先敷色为红,并且都为未完成品。

日本語訳

本稿では、その共通の特徴として、つまり墨線で白画が描かれてから、まず赤を塗っている、そしてどちらも未完成品だと筆者が考える。

中国語

在这些墓室或洞窟壁画的未完成作品中,一些遗存显示出头发等局部还未完全罩色,这样的情况可能和颜料的缺失有关。朱砂的产地与流通可能是其主要影响因素。绘制面色的朱磦色与白色在中国大陆均有来源,朱砂在中国有大量出产,是比起其他画材可以称为“信手拈来”的第一手颜料。

日本語訳

これら墓室や洞窟の壁画の未完成作品において、髪の毛などの部分がまだ色付けされていない。これは、顔料が足りなかった可能性もある。朱砂の産地や流通が、一番の要因かもしれない。顔の色を描いた朱色と白色は中国の大陸が産地であり、朱砂は中国で大量に生産されており、他の画材よりも「手当たり次第」入手できる絵の具である。

結論

中国語

笔者设定了假说 — 一种不同于以往学者对《鸟毛立女屏风》来源认识的新的可能性,即这六扇屏风的源头与唐代中原壁画、石刻等风格有着密切的渊源关系,其纸本原作可能为画师在进行墨线勾描——“白画之后,进入设色的初期阶段时,制作中断,屏风画发生了从中国大陆至朝鲜半岛及日本列岛的位移与身份转变。其后,日本画工或匠人在设色未完成品之上进行了当地山鸡羽毛的贴敷。

日本語訳

筆者は従来の学者が認識している『鳥毛立女屏風』の由来に関する可能性と異なる仮説を立てる。即ち、この六枚の屏風の由来は、唐時代の中原壁画や石刻などのスタイルと密接な関係があり、その原作は絵師が墨線で「白画」を描いてから、色塗りの最初の段階で製作が中断され、朝鮮半島や日本列島へと渡った可能性がある。その後、日本の絵師や職人によって、未完成品の上に、現地のヤマドリの羽毛が貼り付けられたのではないだろうか。

 
今回は以上です。

次回は、この「中国伝統色彩学術年会」の開催者の挨拶から掛詞についてご紹介しようと思います。

弊社は、高いレベルの同時通訳、会議通訳者を派遣します!
ご相談、お見積もりなど、弊社へのお問合せよりお気軽にお問合わせください!



筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。