連載企画「中国伝統色彩学術年会の用語整理」の第4回目です。
今回は、中国人民大学の王文娟教授が発表された「道家の色彩観」についてご紹介いたします。
※「中国伝統色彩学術年会」については用語整理(1)をご参照ください。
王先生の発表内容
基本用語
中国語 |
发表概要 |
日本語訳 |
プレゼンの概要 |
道家の色彩観念
中国語 |
一、 批判与解构:“五色令人目盲” |
日本語訳 |
一、批判と解体:「五色が目をくらませる」 |
中国語 |
庄子:“擢乱六律,烁绝竽瑟,塞瞽旷之耳,而天下始含其聪矣;灭文章,散五彩,胶离珠之目,而天下始人含其明矣。” |
日本語訳 |
荘子曰く:「六律を擢乱(てきらん)し、竿瑟(うしつ)を鑠絶(しゃくぜつ)して、瞽曠(ここう)の耳を塞(ふさ)げば、而(すなわ)ち天下始めて人ごとに其の聡(そう)を含まん。文章を滅ぼし、五采(彩)を散じて、離朱(りしゅ)の目を膠(にかわ)すれば、而ち天下始めて人ごとに其の明(めい)を含まん。」 |
中国語 |
在孔子建构“礼”仪之邦的时候,老庄却在怀疑、解构着各家所持的价值观。嘲笑孔子,否定墨子。 |
日本語訳 |
孔子が「礼」儀の国を構築する際に、老子と荘子は各流派が持っている価値観を疑い、その思想の構造を解体していた。孔子を嘲笑し、墨子を否定した。 |
中国語 |
二、“虚”“无”“空”(黑白)——道家的本体论色彩观 |
日本語訳 |
二、「虚」「無」「空」――道家の本体論色彩観 「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず。万物は陰を負いて陽を抱き、沖気を以って和を為す」 「天下万物は、道の用(はたらき)より生じ、道の用(はたらき)は道そのものより生ず」 |
中国語 |
老子跳出了人伦日用的礼,膜拜的是“虚”(“无”)。 |
日本語訳 |
老子は倫理礼儀から飛び出して、「虚」(「無」)を拝んだ。 |
中国語 |
三、道家色彩观对中国文人水墨画影响深远。 |
日本語訳 |
三、道家の色彩観は中国の文人が描く水墨画に深い影響を与えている |
中国語 |
道家的解构批判而退守隐逸,是对主流社会的一种间距化或边缘化。隐逸批判作为一种文化现象是与专制社会里的反抗精神相联系的。隐逸可以使这个人物充分认识到自己内部所有的力量。隐逸代表着道德上一种积极的而不是消极的行动。唯‘独行’者有勇气和力量离尘绝俗,单枪匹马地代表着正义之道。 |
日本語訳 |
道家の解体と批判による守りに入った遁世は、主流社会に対して、距離を取り、周縁化した行動である。遁世で批判することは一種の文化現象として、独裁社会における反骨精神と関連している。遁世することで、人間に自分の内なる力を十分に認識させることができる。遁世は道徳上、積極的な行動であり、消極的なことではない。「一人で行動する」者のみ、俗世間から離れる勇気と力があって、単独行動は正義を代表している。 |
中国語 |
如 1279 年当南宋被蒙古人灭亡之后,文人画家郑思肖也同时是有名的宋代忠臣退而隐逸,画兰不画土,曰:“土被番人夺去也。” |
日本語訳 |
例えば1279年に南宋がモンゴル人によって滅亡された後、文人画家であり、宋代の有名な忠臣でもある鄭思肖は引退して遁世し、蘭を画くが土を画かない、曰く「土は番人に奪われたのだ」。 |
中国語 |
如果说儒家色彩观和唐宋皇家贵族气派的青绿山水之鼎盛有着特别的关系 ,那么水墨山水画的胜出就和道家色彩观(以及道庄化的禅宗色彩观)有着不解之缘。于是文人画家就要和宫廷画家堂皇富丽之彩色,也要和民间画工艳俗活泼之色彩拉开距离。在进退两难而终退隐以求静心的“文人画”家那里大多即以庄禅水墨黑白之境来护守人格,以臻心灵归宿。 |
日本語訳 |
儒家の色彩観と唐宋の皇室貴族スタイルの青や緑で描かれた山水画の最盛期と特別な関係があると言えるなら、水墨山水画は道家の色彩観(及びそこから派生した禅宗の色彩観)と切っても切れない縁を持つ。そのため、文人画家は宮廷画のような堂々たる色彩や、民間の艶やかで俗ぽい色彩と一線を画す必要があった。進退に窮まりつつも最終的には遁世して心を静めようとする「文人画」の多くは、荘子の禅思想である水墨画の白黒で自らの人格を守り、心の落ち着きを求めたのだ。 |
中国語 |
然中唐以后文士大多没有了原儒孔子至大至刚的气魄 ,也没有了庄子“挥斥八极”之气势,遂大多醉心于“空山无人,水流花开”的禅宗之境。禅宗是佛教的中道宗与道家哲学相互作用产生的。禅宗虽是佛教,同时又是中国的。 |
日本語訳 |
しかし、唐以降の文人は儒教の孔子のような大きくて剛直な気迫を失い、荘子のような気概もなく、多くは「人の居ない山や水流、咲く花」をモチーフに、禅宗の世界に酔いしれた。禅宗は仏教の中道宗と道家の哲学が合わさったもので、仏教でありながら、中国のものでもある。 |
中国語 |
最后,反抗性的强劲画风并非文人画的主流,文人画的主流依然是道家贵柔尚淡,即董其昌倡导的“落叶空山”“镜花水月”的南宗画,以王维、董源、苏轼、米芾、倪瓒等为代表。 |
日本語訳 |
最後に、反骨精神の強い画風は文人画の主流ではない。文人画の主流は依然として道家の品格ある柔らかさで淡白な色使い、即ち董其昌が提唱した「落葉空山」「鏡花水月」の南宗画で、王維、董源、蘇軾、米芾、倪瓚などが代表である。 |
今回は以上です。
次回は、西安美術学院の張楽副教授が発表された「正倉院蔵《鳥毛立女屏風》から唐代の紙と壁の絵画における色設定の秩序」についてご紹介しようと思います。
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筆者プロフィール
北京出身。
大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。
現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。