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[第54回] 中国伝統色彩学術年会の用語整理(1)


中国芸術研究院美術研究所は、毎年11月に「中国伝統色彩学術年会」を開催し、2日間にわたり中国と日本から集まった30名以上の色彩学の学者たちが論文を発表します。
発表された論文は1冊の本としてまとめられ、会議の参加者に配布されるとともに、WeChat上にも掲載されます。

私は一昨年と去年に同時通訳者の一人として会議に参加しました。
毎回論文集のファイル(事前資料)を頂くのは会議開催の1週間前で、短時間ではそのほとんどを読み切ることが出来ず、予習もままならぬまま通訳に挑んでいました。

いつか手が空いた時に用語を整理しようと思っていたので、今回は故宮博物館の館員の発表内容から、「色」についての単語を整理したいと思います。

尚、本ブログで使われる図や一部の文章は、WeChat「伝統色彩研究」で掲載されています。

清の宮廷服飾に見られる中国の伝統色

 中国の伝統色は曖昧の部分があり、現代の色見本のようには作れない。
プレゼンターである、故宮博物院の章新館員が発表の冒頭で断言していました。

それを聞いて、私は日本で見かけた「中国の伝統色」シリーズを思い出しました。
DIC株式会社(旧大日本インキ化学工業株式会社)から出版されている「DICカラーガイド」の「中国の伝統色」です。

今回ブログを書くにあたり、早速調べてみました。

中国のサイト上の情報によると:
「中国の伝統色」は中国の中央美術学院の王定理教授が作成し、大日本インキ化学工業株式会社が1986年に発行されたもの。
計320の色をまとめており、色見本としても使えるようにしています。

(この320色はサイト上でも簡単に調べられます)

さて、章先生が発表した色は、DICカラーガイドの中にあるのでしょうか?

表紙

石青色:(シーチンスー/せきせいしょく?)
いきなりですが、この色は「中国の伝統色」320色の中にはありませんでした。
※DICカラーガイドでは、中国語の読みをそのままカタカタで表記しているので、それをまねて表記しました。
(読み方は私が付けたので、?マークを付けています)
章先生の説明によると、
 表紙に用いられた色は、石青色という。
 清の宮廷の衣裳に一番みられる色である。

 また、青は中国古代において最も広範囲の色名であり、時には緑、時には青、時には黒を指している。
とのことです。

1ページ目

湖色:(フ―スー/こしょく?)
この色も、DICカラーガイドにありませんでした。
章先生の説明によると、
 とても淡い青、空の色が湖に映した色である。
 夏の服によく用いられる。
 このスライドにある三つとも「湖色」だが、微妙に色が違う。
 一番右にあるのは西洋の絹織物で、ヨーロッパでは湖色とは呼ばない。
 しかし中国に運ばれて、宮廷で衣服を作る際に、このような薄いブルーを湖色と呼ばれるようになった。
とのことです。

2ページ目

月白色:ユエパイスー
 DIC:C209
 白く輝く月のような緑みがかった白色
この色はDICカラーガイドにありました!
発音、色見本の番号、色に関する説明は、上記通りです。
章先生の説明によると、
 古代では月白とは、月に照らされた白である。
 皇帝が毎年秋分の日に月壇で酉の刻(午後6時)に夕月祭礼を行う。
 その際に月白色の祭服を着用する。
 古代では、中秋節をテーマとした装飾画にはこれを背景色にすることが多い。
 現代の都会ではこのような色をなかなか観れなくなっている。
 また、清の末期になればなるほど、色が鮮やかになり、品月色に取って代われる。
とのことです。

品月色(ピンユエスー/ひんげつしょく?)
この色はDICカラーになく、検索しても説明が見当たりませんでした。
色は、月白色と比べて白と青がより鮮明です。

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藕合色:オウフースー
この色はDICカラーガイドにありませんでしたが、DICカラーガイドの「淡藕合」とほぼ同じです。
淡藕合の発音、色見本の番号、色に関する説明は以下の通りです。

淡藕合:タンオウフー
 DIC:C209
 ごくうすい紫。
章先生の説明によると、
 藕合色は現代ではうすい紫をいう。
 しかし同じ名前でも、色の変化が大きい。
 このスライドに見られた色のすべては藕合色という。
 驚くなかれ、乾隆帝(けんりゅうてい)時代のそれは、清の末期、民国初期のそれとはまったく違う色になっている。
とのことです。

4ページ目

このスライドは配色について説明しています。
左の写真は金色の糸で装飾したもの。右の写真は濃淡別の青を三つ使った配色です。
章先生の説明によると、
 清の宮廷服飾において、皇帝や官僚などが慶祝行事などの宴席で着用する吉服の多くは金色の糸が主役である。
 金色と様々な色と織りなして、地位の違いが現している。
 また、よくある三藍スタイルだが、古代では喪服であり、現代ではその色の意味も理解せずに女性の洋服で使われているのをみるが、どうも違和感がある。
 伝統色を用いる際に、その背後の生活、倫理、政治、文化も理解する必要がある。
とのことです。

固有名詞をどう訳すか?

章先生のプレゼン資料を整理してみると、確かに伝統色は現代の色見本のように作りにくいものですね。そしてなにより、通訳泣かせの色名ばかりでした。
DICカラーガイドのカタカナ表記を見ると、これは日本人の耳で聞いた中国語の音であり、決して中国語の正しい発音ではないことがわかります。

中国の伝統色を通訳する際は「中国語の発音のままで良いのかな?」とも思いました。
会議に参加された日本人先生へ伺ってみたところ
 固有名詞に関しては中国語のままで良い
また、
 資料にはローマ字表記(中国語発音注記のピンイン)があると助かる
とのご意見を頂きました。

それでは、章先生の資料にあった色名の中国語を下記通り一覧表にまとめます。

色名中国語のまま) ピンイン
石青色 shíqīngsè
元青色 yuánqīngsè
月白色 yuèbáisè
品月色 pǐnyuèsè
湖色 húsè
藕荷色 ǒuhésè
明黄色 mínghuángsè
杏黄色 xìnghuángsè
金黄色 jīnhuángsè
香色 xiāngsè

おまけ

Google翻訳を使って、中国語の発音を聞く方法を紹介します。

  1. Google翻訳を開きます。
  2. 左側の窓の言語で中国語を選択し、聞きたい中国語を入力します
  3. 入力した中国語の下に自動的にピンインが表示されます。
  4. スピーカマークをクリックすると、発音を聞くことができます。

    注意:右側の窓の言語で日本語を選択すれば日本語訳が表示されますすが、必ずしも正しい訳ではないことをご注意ください。


次回は、周口師範
学院文学院の楊蕾先生が発表された「中国の古典的な演劇、元代雑劇」についてご紹介しようと思います。


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筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。