中国語の翻訳ならモシトランス

株式会社モシトランス
中国と中国語のエキスパート

[第45回] 習近平主席の年頭の祝辞から拾った新しい言葉


明けましておめでとうございます。

みなさん、明けましておめでとうございます。品質担当のSです。

今年は自分の勉強も兼ねて、翻訳や通訳に使われる可能性の高い言葉を整理していきたいと考えている。

第一弾は、習近平主席の年頭祝辞から新しい表現を拾いたいと思う。

不忘初心 砥砺前行

「初心忘れず 前進を続ける」

昨年、習近平総書記は、中国共産党建党95周年式典の演説の中で「初心を忘れず、前進を続ける」というフレーズを数十回にわたり繰り返し述べた。この式典が行われた7月以降、この「初心を忘れず」というフレーズは、国民の大きな期待を背に、ネット上で長期間にわたり話題として取り上げられた。

今年、国家主席という立場で行った年頭のあいさつもまた然り、その結びとして述べた「只争朝夕 不负韶华」という漢字8文字からなる中国語のフレーズ(「一刻も無駄にすることなく、日々を大切にする)が、その放送直後から一般の人々により、個人的な今年の目標としてSNSに投稿され、拡散される事態となった。

習近平主席2020年新年挨拶の中国語原文および日本語訳の出典は以下のとおりである。

習近平主席2020年新年挨拶

中国語原文:中華人民共和国中央人民政府(オフィシャルウェブサイト)
日本語訳:中国国際放送局CRIonline
(この訳は必ずしもいい訳だと思っていないことを、断っておく)

新しい中国語の整理

原文:我们用汗水浇灌收获,以实干笃定前行
訳文:我々が流した汗水が実り、着実な行動で前進することができました。
コメント:直訳すると、「我々は汗水で収穫を灌漑した…」、これでは通じないので、「我々は汗水を流して実りを得、そして着実な行動で前進することができた」に直したいかな。

原文三大攻坚战取得关键进展。
訳文三大堅塁攻略戦はカギとなる進展を遂げました。
コメント:三大堅塁攻略戦とは、中国で国が挙げて行う三つのプロジェクト、重大リスクの防止・解消、的確な貧困脱却、環境汚染対策のこと。
「カギとなる」を「重要な」、「大きな」としたい。


原文:按下快进键
訳文急ピッチで推し進められ
コメント:直訳すると「早送りキーを押す」となるが、比喩的表現であり、経済、計画などの進展を加速させるという意味でよく使われる表現。


原文:全国将有340个左右贫困县摘帽、1000多万人实现脱贫。
訳文:全国340の貧困県に暮らす1000万人余りが貧困から脱却します。
コメント:中国語の「帽子」は、頭に被る帽子のほか、日本語の俗にいう「レッテル」という言葉と同様のニュアンスを持つ言葉であり、ここでいう「摘帽」(帽子を取る)とは、「レッテルを剥がす」という意味である。この文の訳は、「全国340の県の貧困県というレッテルを剥がし1千万余りの人の貧困脱却の実現を目指す」としたい。


原文:网络提速降费使刷屏更快了
訳文:ネット接続の加速と使用料の削減によってアクセススピードが一段と速まり
コメント:「刷屏」は、元々はネット用語で、ネット上に同様の発言や情報を繰り返し書きこむ行為を意味する言葉である。日本ではそういう行為は「スパム行為」とネガティブな意味に受け止められるが、中国では単に繰り返される行為、または画面がどんどん更新されることを意味する言葉として使われ、中性的な用語と言える。
中国ではある事柄に関し、重要である場合、或いは関心があるとき、その言葉自体、或いはそれに関連した言葉を繰り返す。それを決して非礼なこととは考えない。「重要な言葉は3回繰り返す」というのが極一般的な認識である。


原文:我们为共和国70年的辉煌成就喝彩,被爱国主义的硬核力量震撼。
訳文:我々は共和国70年の輝かしい成果に喝采し、国を愛するというぶれない力に心を揺さぶられました。
コメント:「硬核」は、英語の「hardcore」を訳出した単語で、日本語に直訳すると、「硬い中心の」となるが、一種の婉曲的表現ともいうもので、「筋金入りの、熱烈な、本格的な」という意味になる。ネット流行語として、「すごい、クールな、猛々しい、頑強な」などの意味もある。「硬核」は、最初はネットゲームプレイヤーの間で使われ、次第に一般人の間でも使われるようになったが、徐々にその範囲が広くなり、意味も変わってきた。


原文:爱国主义精神构筑起民族的脊梁
訳文:国を愛する精神が民族のバックボーンを築きました
コメント:「脊梁」は背骨、脊柱の意味だが、「背骨」という単語を敢えて「バックボーン」というカタカナ語にすることで「思想的支柱」という意味に変換している。

挨拶に使われた四文字フレーズ

原文:北京大兴国际机场“凤凰展翅”
訳文羽ばたく鳳凰の形をした北京大興国際空港が開業しました
コメント:新しくなった北京空港の形状が判っていないと訳出できない表現かもしれない。


原文阅兵方阵威武雄壮,群众游行激情飞扬
訳文:閲兵式の隊列は厳かで勇ましく、市民パレードは溢れんばかりの情熱を放ち
コメント:前文は形容詞を連ねた表現。日本語訳では、二つの形容詞を一方は「厳か」という形容動詞に変換し、もう片方は「勇ましい」という形容詞のままにし、「で」で並列して繋いでいる。


原文雄安新区画卷徐徐铺展,天津港蓬勃兴盛,北京城市副中心生机勃发,内蒙古大草原壮美亮丽,河西走廊穿越千年、历久弥新,九曲黄河天高水阔、雄浑安澜,黄浦江两岸物阜民丰、流光溢彩……祖国各地一派欣欣向荣的景象。
訳文絵巻のように広がり始めている雄安新区、栄えている天津港、活気溢れる北京市副都心、壮大で美麗なる内蒙古大草原、千年にわたる歴史の中で色あせることない河西回廊、天高く水広く、力強く流れる黄河、人々が豊かに暮らし、光り輝く黄浦江…
コメント:それぞれの場所をこのように四文字の言葉で修飾し、形容するのが中国では洗練された教養ある表現とされるが、日本語に訳出するとなんとなく大仰で冗漫に感じる? この文化的背景の違いからくる感性的な違和を翻訳が解消することは難しい…


原文历史长河奔腾不息,有风平浪静,也有波涛汹涌。我们不惧风雨,也不畏险阻
訳文:歴史の大河は絶え間なく流れていきますなぎの時もあれば、大波の時もあります。我々は風雨を恐れず、困難も恐れません
コメント:先の文は中国と同じ構成で訳出したが、この文は難しく、句読点の打ち方も変えなければならないし、2フレーズを1フレーズにまとめてもいる。


原文一国两制”  “一带一路
訳文:「一国二制度」 「一帯一路」
コメント:これらは中国を語るうえで欠かせない言葉となり、日本語でもそのまま使うこととなった。


原文让我们只争朝夕,不负韶华,共同迎接2020年的到来。
訳文:我々は一朝一夕を争いながら、日々を大切にし、ともに2020年の到来を迎えましょう。
コメント:人民日報のオフィシャルサイトでは、「一刻も無駄にすることなく、日々を大切にする」と訳されている、この訳がもっと日本語らしいと思う。また、この8文字のフレーズが今年のキーワードとなるだろう。

おまけ

SNS(Wechat)上、元旦投稿にみられる習主席の言葉の引用。

2019年のキーワード:
不忘初心 砥砺前行(初心を忘れず 前進をする)

2020年のキーワード:
只争朝夕 不负韶华(一刻も無駄にすることなく 日々を大切にする)
























筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。