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中国と中国語のエキスパート

[第12回] 訳語の検証の大切さ


新緑の季節

みなさん、こんにちは。品質担当のSです。

日本も中国も5月の連休が終わってから10日余りが経ちましたが、早くも次の連休が恋しくなったりしていませんか?(笑) 新緑の季節を迎え、外に出るととても気持ちがいいので、休日が待ち遠しいですよね。

[緑の写真]
自然が呼んでます!

さて、今回は訳語の検証の大切さについてお話したいと思います。

反省

私が担当している仕事の1つに、「中国自然環境情報」という案件があります。作業としては、日本のお客様が指定した中国のWebサイト上で、お客様が興味のありそうな記事をピックアップして、要約を作った上で、さらに日本語にするというものです。

先月中旬に作業を行なっていた際、いくつもの案件が同時進行していたこともあり、つい訳語に関する検索時間をいつもよりも短くしてしまいました。すると、案の定と言いますか、納品後にお客様からご指摘をいただいてしまいました。今回の話は、私の反省そのものでもありますが、やはり、訳語を元の言語の言葉とぴったり一致させることは難しいということを再認識させられた出来事でもありました。

具体例

私が作成した要約の原文とその訳文は、以下の通りです。

原文 訳文
拟自然,为什么更亲近自然?——山水林田湖草生态保护修复的技术选择
二十世纪初,欧盟、美国、日韩等国家正是在拟自然理念指导下,经历了将硬化河道改为拟自然河流的过程,实现了河道治理生态效益、经济效益和社会效益的相统一。国际上的这些成功实践,为我国破解治理水患之困提供了重要参考。
国外典型案例介绍
(一) 德国莱茵河——拟自然水利工法
(二) 美国查尔斯河——河道生态修复技术
(三)日本土生川——多自然型河川工法
(四)韩国清溪川——河流生态文化复原工程
(五)新加坡加冷河——河流公园融为一体
疑似自然は、なぜより自然に親しくできるか?——山水林田湖草の生態保護修復の技術選択
二十世紀初め、欧州連合、アメリカ、日本、韓国などの国はまさに疑似自然の理念のもと、人工の河川を自然な河川に似通ったほうに変え、河川の生態効果、経済効果、社会効果を一括に実現することができた。これらの成功した経験は、我が国の水害対策にとって重要な参考となることが考えられる。
海外の代表的なケースの紹介
(一)ドイツライン川——自然疑似水利法
(二)アメリカチャールズ川――河川生態修復技術
(三)日本土生川——マルチ自然型河川工法
(四)韓国清渓川——河川生態文化復元工事
(五)シンガポールカラン川——河川と公園の一体

ここに登場した言葉のうち、訳語に関する調査(検索)を怠らずにやるべきだと考えた用語は、以下の通りです。

No. 原文の用語 訳文の用語
1 拟自然 疑似自然
2 拟自然水利工法 自然疑似水利法
3 河道生态修复技术 河川生態修復技術
4 多自然型河川工法 マルチ自然型河川工法
5 河流生态文化复原工程 河川生態文化復元工事
6 河流公园融为一体 河川と公園の一体化
7 韩国清溪川 韓国清渓川

いずれの訳語も、中国語の原文だけ見て、単に言葉から言葉へ訳すだけであれば、特に間違いというわけではありません。

お客様からのご指摘

ところが、納品後にお客様からこのようなご指摘をいただきました。

参考になる河川工法の事例として日本のものなども入っており、興味深く読ませていただきました。1点修正させてください。マルチ自然型河川工法と訳されていますが、日本の国交省の取り組みの名称としては「多自然川づくり」という言葉が使われています。次回同様の記事がありましたら、こちらの名称でお願いします。今回は私の方で、お送りいただいたものに、加筆をさせていただきました。

ここでお客様が訂正したのは、前述した表の4番の言葉だけでしたが、その後のメールで7番の韓国の河川名は漢字ではなく「チョンゲ川」と表記すべきだと気付かされました。また、お客様に指摘されたわけではありませんが、さらに関連した事を調べていくと、1番も実は「疑似自然」ではなく、「近自然」が正解であることもわかりました。

訳語の検証は、本当に大事ですよね。

おまけ

この件は、既に納品済ではありますが、その後も個人的にいろいろ読みたくて、お客様から教えてもらったことがあります。近自然工法に興味のある方は、是非読んでみてください。

多自然川づくりについては、国土交通省のウェブサイトをご覧になるのがよいかと思います。ほかの事例も載っているようです。
http://www.mlit.go.jp/river/kankyo/main/kankyou/tashizen/02.html
日本の河川法には、以前は、治水と利水、つまり洪水対策と水の利用の2つのことしか書いていませんでした。そこで、弊会では、政府に対して、提案や海外事例の紹介などを通じて、河川と自然の結びつきの大切さを説き続けました。そうした活動や時代の流れなどもあって、1997年の河川法の改正の際に、治水、利水に加え、環境が3つ目の要素として、河川法に盛り込まれました。
10年ほど前になりますが、川の自然を再生して洪水対策を行うことをテーマとした会議を開催しました。下のサイトからダウンロードできますので、よろしければ、是非ご覧ください。
http://www.ecosys.or.jp/activity/symposium/symposium2008/

筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。