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[第23回] 私が特許校閲者になった経緯


5人目登場

みなさん、はじめまして。校閲担当のIです。

前職では中国特許の翻訳文を校閲する業務に数年間携わり、弊社入社後は英文特許の同様の業務を現在担当しております。

ただ、校閲者の仕事に就いたのは、大学卒業後長く別業種で従事したあとで、しかも校閲業務開始時には「校閲」の経験はもちろん知識もほぼ皆無でした。

このような人間がどのように校閲者としてのスキルを積んだかを通じて、実際に私たち校閲者がどのように用語や表現を選択しているのか、についてお伝えできればと思います。

校閲者となるまで

校閲に携わる以前の私は、大学で中国語を専攻し、卒業後従事していた業務では一部中国語を使用していました。

中国語を使用していたといっても、専門的な文章を読み書きするタスクはありませんでしたし、日常で特許文書に触れることもほとんどありませんでした。

また、校閲作業も経験していません。中国人スタッフから頼まれて、日本語の修正を行なった程度です。

したがって、「中国特許の翻訳文を校閲する」作業は全くの未経験で、「校閲」「校正」に関する知識はこの時点ではほとんどありませんでした。

校閲者になったきっかけ

求人サイトで「中国語から日本語に翻訳された特許文の校閲スタッフ(中国語経験者歓迎!)」と書かれた募集広告を見つけたとき、「特許」「校閲」という字面に一瞬「求められるレベルが高そうだし、自分には縁がないかも」と感じたのですが、好奇心もあって入社試験(トライアル)を受けてみることにしました。

他の文系求人と比較して、条件がまぁまぁ良かった、というのもあります。

中国語を使用する仕事のはずなのに、なぜか日本語の文章中のタイプミスなどを修正するだけのトライアルと面接を経て採用され、ある夏の月曜日から「新人校閲者」としての勤務がスタートしました。

初日から不安が…でも

初日から数日はOJT期間でした。トレーニング用に渡された紙には、特許要約文の中国語原文と、その日本語への翻訳文がそれぞれ並べて印刷されており、OJT担当者から「修正が必要と思った箇所に、どのような修正が必要か書き込むように」と指示されました。

ここで初めて中国語の特許文を読んだのですが、難易度がかなり高く内容が把握できませんでした。特に中国語の「技術用語」「特許文書独特の表現」は見慣れない物で、翻訳文が正しく翻訳されているのかどうかなど全く判断がつきません。どう着手すればいいのかわからず手が止まってしまい、高度な知識や中国語力がなくては続けられないのでは…と不安になりました。

ここでOJT担当者から「文書の内容はともかく、翻訳文中の日本語として明らかにおかしな場所を修正してみて」と次の指示があり、そう言われて翻訳文をよくよく読んでみると、約200文字の翻訳文中に

  • 句読点の脱落やタイプ(変換)ミス
  • 助詞の誤り
    • 例:「装置はローラとベルト含み、」
  • 係り受けの誤り
    • 例:「ベルトをローラに接続され、続いてローラのスイッチをオンにする。」

が5~6か所存在しているのを発見し、やっと手が動くようになりました。

初日はさらに10件程度の練習用特許文書を校閲したのですが、上記のような誤りは比較的発見しやすく、またどのように修正するかは通常使用している日本語の範疇で十分に対応することができ、特別な国文法の知識も必要としませんでした。

そうか、入社前のトライアルはこれができるかどうかを確認するためのものだったのか、だから最初はこれができるだけでいいんだ、と気付き、それと同時に、初めて中国語の特許文書を読んだときの不安がかなり解消されたことを覚えています。

校閲者として最初に学んだこと

このことから、特許文書翻訳文校閲の基本は

日本語として不自然な箇所を発見し修正する

ことである、と学びました。

これは後になってわかったことなのですが、特許文書を翻訳するスタッフは、必ずしも日本語ネイティブとは限りません。中国人が日本語ネイティブが書いたような、しかも公用文における「自然な日本語」を書くのは通常困難です。(逆も然りで、日本人が「自然な中国語」を書くのだって相当に困難ですから。) また、翻訳はパソコンの翻訳ツール上で行なうことが多いのですが、人間の作業である以上、どうしてもタイプミスが発生します。

校閲者はまず、こういった箇所を発見し修正することから始めるのですが、なにをもって不自然と判断するか、どのような修正を行なえば不自然さが解消されるかは、校閲者の「日本語のセンス」が大きく影響するように感じます。厳格な国文法の知識は多く求められませんが、読み手を意識することができるセンスは必要です。前述のトライアルの目的は、受験者にそのセンスがあるかどうかを一定程度フィルタリングすることだったのでしょう。

実際には当然ながら、難解な技術用語や特許文書特有の表現への対応も必要なのですが、それらについてどのようにして対応できるようになっていったかは、次回以降でお話します。


筆者プロフィール

東京出身。

中国語に関心を持ったのは、小学校時代に転居先の東南アジア某都市で華僑宅にあった華字新聞やカセットテープの歌詞カードの中国語を見て「漢字だけで全部表現できるなんて面白い言葉だなぁ」と思ったのがきっかけ。

以来、中国語との付き合いは数十年。「語学は、長く関わっているだけじゃ上達しない」ことを実感。