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[第3回] 人の名前は難しい


実は

みなさん、こんにちは。品質担当のSです。

別に隠しているわけじゃないんですが、私、翻訳だけじゃなく、通訳も担当しているんです。翻訳と通訳では、頭の使い方が全く違っていて、通訳には通訳ならではの大変さがあります。

というわけで、第3回は、通訳における苦労話です。

最初が肝心

同時通訳のコースを受けていた時、先生がこんなことを言っていました。

通訳の良し悪しは、会議の冒頭20分間で判断されます。

つまり、第一印象で全てが決まるというわけです。

同時通訳の場合、通訳者はブースの中に座っていますが、ブースの場所は会場の一番後ろにあるため、あまり目立ちません。会場設営の時間には既に会場に着いていることが多いので、会議の参加者の誰よりも先に会場入りしているわけですが、ほとんどの参加者は、わざわざ通訳ブースの中を覗いて、どんな通訳者がいるかなんて確認はしません。

通訳者の存在を意識するのは、スピーカーやイヤホンから聞こえる通訳者の第一声が耳に入ってきた瞬間なのです。

一般的な会議の流れ

会議の流れは通常、司会者挨拶、主催者挨拶、共催者挨拶、ゲスト挨拶、などと続きますが、シンポジウムやフォーラムなど、冒頭の司会者挨拶でゲストや出席者の紹介があったり、小規模な会議だと主催者が参加者の紹介をしたりします。

挨拶の部分は定型文が使われることも多いので、特に困ることはありませんが、今回は毎回緊張する参加者の紹介について書きたいと思います。

読み方が違う

大きな国際大会は通常2-3ヶ月前に日程が決まっていて、10-20名規模の会議も2-4週間前には決まっていることが多いのですが、日程が確定してから出席者が決まっていくため、参加者名簿が出来上がるのは早くても1週間前、遅いと前日や当日になったり、最悪の場合は名簿がないこともよくあります。

この参加者名簿は、直前でもいいので、絶対に手に入れたいものです。特に、日中2ヶ国語会議においては、「必須です!」と声を大にして言いたいです。なぜなら、お互いに相手の名前をそのまま呼ばないからです。

どういうことなのか、例を見てみましょう。

中国人の名前 日本人の名前
漢字表記 习近平
李克强
安倍晋三
河野太郎
読み(中国語) Xi Jinping
Li Keqiang
Anbei Jinsan
Heye Tailang
読み(日本語) Shuu Kinpei
Ri Kokukyo
Abe Shinzo
Kohno Taro

同じ漢字を使った名前でも、中国語の読み方と日本語の読み方では、全く違うというのがお分かりいただけたでしょうか。

そもそも、日本人同士で名前を言うときも漢字を説明しますよね。

かわかみです。かわの字は、さんずいの河です。

実は、中国人同士の場合も同じなんです。

苗字はzhangです。弓に長いのzhang(張)ではなく、立つに早いのzhang(章)です。

この例では、よく知られている漢字が使われているからまだいい方ですが、あまり使われない漢字だと、読み方も調べなくてはなりません。

聞き間違えちゃった

最近、こんなことがありました。

ある調査会社の会議で、会議直前まで参加者名簿を手に入れることができなかったので、司会者(=中国語も日本語もできる)の方には、「日本人の名前を言う時、中国語読みではなく、日本語読みでお願いします。」と伝えておきました。

しかし、いざ会議が始まると、司会者は中国語で会議を進めるため、自然と日本人の名前も中国語読みしてしまいます。(だって、頭をよぎるのは漢字だから。。)

東京からは「SantianとZhechuan」の2名も参加していました。この「SantianとZhechuan」は、瞬時に「三田(みた)と哲川(てつかわ)」と通訳しましたが、あとで確認すると、実は「山田(やまだ)と澤村(さわむら)」だったことが判明しました。中国語読みだと 「ShantianとZecun」ですが、司会者特有の訛りもあって、「SantianとZhechuan」に聞こえたんですよ。

さらに難易度は上がる

小規模な会議だと、司会者による参加者紹介ではなく、出席者全員の自己紹介というパターンも多いです。

自己紹介する内容は、氏名、会社名、部署名、肩書、それにプラスアルファです。大抵の社会人なら、これまでの人生で自己紹介を数えきれないほどしてきているので、自分の名前や会社名や部署名くらいは、それはそれはスムーズに早口で一気に言えます。

加えて、小規模な会議だと、マイクを使わずに喋ったりすることがあります。こういう場合に、事前に名簿を手に入れておかないと、通訳者にとっては本当に絶体絶命のピンチです。

誰だって、自分の名前を間違ってほしくないですよね。肩書だって重要ですし、会社名はもちろんのこと、担当している仕事やプラスアルファの情報は、特に会場からの反応が欲しくて話すわけです。瞬時に対応しなければいけないので、通訳者はいつも冷や汗をかいています。

私の場合、いつも、会議の前日から1時間前までは名簿の提供をお願いし続け、できれば席順も確認し、頭の中で何度も何度も参加者の名前などを繰り返し練習します。それでも、名簿に載っていない代理の出席者が突然に現れたりすることもあります。

逐次通訳だと、全く聞き取れない場合でもマイクで「お願いします、もう一度お願いします。」と言えますが、同時通訳の場合は、さすがにお手上げです。聞き取れたところだけ通訳するしかありません。

最近、日本では現地読みを優先して、中国語の名前も中国語読みで読んだり、ルビを振ることが多くなってきました。例えば、習近平だと「シー ジンピン」です。日本も中国も、お互いに現地読みが浸透すれば、通訳者の悩みが1つ減るんですけどねぇ。


筆者プロフィール

北京出身。

大学進学を機に来日し、大学卒業後は日本で某大手商社に入社。学生時代も含め、通算16年あまり日本で暮らす。

現在、モシトランス北京では品質担当の責任者として、モシトランス東京では創業メンバーとして、北京と東京を行き来する忙しい日々を送っている。